「ん」の発音について。

こんにちは。柳橋(仮)先生の日本語かなんかの講座ー。の、お時間です。今日のお話は、日本語の「ん」の発音についてです。
みなさま、日本語でお話をなさるとき、何種類の「ん」を発音なさっていらっしゃいますか? と申し上げますと、大半の日本人の方は「質問の意味がわかんない」とか「何を言っているのかわからない」というような顔をなさいます。そんなん考えたこともないわーという方がほとんどかと思います。特に勉強なされた方は別ですよ。普通の方のお話です。実際、修学旅行とか研修とか留学とかでうちの大学に来る日本人の(今のところ)全員が、冒頭の質問に対して「はい?」という顔をしたのを私は見ております。なんでそんなのを見る機会があるかと申しますと、大学のある種の交流事業について、お手伝いをさせていただいているからです。それはさておき。
ちょっとご自分の口に注目しながら次の言葉を発音なさってみてくださいませ。

秋刀魚(さんま)、山頂(さんちょう)、山月記(さんげつき)。

口に注目しながら発音するとは、こう、口の形や舌の位置、唇の上下が合うか合わないか、口蓋(口の中の上部分、熱いものをストローで飲むとべろべろになる部分です、痛い話注意)と舌の様子がどうなっているか、あと喉の辺りとかを意識しながら発音するということです。もう一度、特に「ん」の発音をする時に、口のそこら辺に注目しながら、次の言葉を発音なさってみてくださいませ。

端末(たんまつ)、ガンダム(がんだむ)、マンガ(まんが)。

全部口の辺りの様子が違いましたでしょう。秋刀魚とか端末とかの「ん」は、唇がいったん完全に閉じてしまいますね。山頂とかガンダムとかの「ん」は、舌の先端が前歯の付け根にくっついた時にちょうどその音を出しているでしょう。山月記とかマンガとかの「ん」は、唇は開けっ放しでなんとなく喉を締めて発音しているような感じです。いかがですか? わかりにくい? では、普通にその単語を音読しようとしながら「ん」を発音したところでいったん口の動きを止めてみてくださいませ。

サンバ(さんば)、読んだ(よんだ)、端午(たんご)。

いかがですか。口の辺りが上の説明のような感じになって静止しますでしょう? サン、バ。読ん、だ。たん、ご。
日本語の「ん」の発音は、主にこの三種類にわけることができます。厳密に言えばもっと細かく分かれて、九種類とか聞いたこともありますが、多分私のような素人には聴いてもわからない難しい説明になることであろうと思われますので、今日のところは省略いたします。日本語の「ん」の発音は、主に三種類。です。しかし、ひらがなやカタカナの表記において、この発音の違いを書き分けることは、日本語ではいたしません。全部等しく「ん」です。ローマ字になるとちょっと変わって、秋刀魚の「ん」はmを使って表記することもあります。機会がありましたらJRの駅名表示をご覧ください。「丹波橋駅」のローマ字表記は「Tambabashi」だったかと思います。また、日本語を母語とする人にとって、これらの「ん」の発音には差がないのです。全部ひとしなみに「ん」と認識している、ということです。日本語を母語としない人の多分多くは、何種類もの「ん」みたいな発音や表記を使い分けているので、違う「ん」みたいな発音で話されると何言ってんのかよくわかんない、ですが日本語を母語とする人は「ん」みたいな発音は全部まとめて「ん」ですからなんか変な「ん」で来られても一応何言ってるかわかる、というような話です。ちょっと難しいですが、たとえば、「ん」部分で唇を閉じないで秋刀魚と発音してみましょう。さ、ん、ま。一応秋刀魚らしく聞こえますね。「ん」部分で唇を完全に閉じて山月記と発音してみましょう。さ、m、げ、つ、き。山月記らしく聞こえますね。他の多分多くの言語ではこういうのないそうですよ。
日本語の発音が簡単だ、という評価は、この表記に対して発音の揺れがわりとある、というところからきていると思います。つまり、どんな発音をしても、それなりに聞き取ってもらえる、ということです。
しかし、日本語の習得は日本語を母語としない人にとって超簡単であるとも超難しいとも評価されます。私個人としましては、初球はわりと簡単だけれど中級の辺りですごい高い壁がある、と思っております。つまり、初めは簡単、発音簡単、多少変でも大丈夫、でも発音で終わらないで書き始めたり語彙を増やしたりあと敬語の勉強を始めたりするととてつもなく難しくなる、ということです。ま、そんなの、どんな言語でも同じだとも思いますがね。