『細雪』一二回目。下巻第二十六章。

細雪 (下) (新潮文庫)谷崎潤一郎細雪 下』

☆使用テキスト。
新潮文庫版、平成七年(七十六刷)版。第二十六章(二三七頁から二四七頁)。
☆二十六章はこんな話。
妙子が蒔岡家に帰ってきて、啓坊の件について雪子と諍いが勃発。
☆梗概。
病が癒えて、妙子は蘆屋の家での蒔岡家の夕食の席に連なるようになる(一応建前上甲麓荘のアパートはそのままにしてある)。妙子はもう元の魅力を取り戻しており、蘆屋の家の、元の妙子の部屋で洋裁の仕事などをするようになる。幸子はそれを微笑ましく見守り、不良化するのも仕事に根を詰めるのも妙子の同じ性質から発しているのだと思う。
啓坊に、満州での仕事の話が持ち上がり、妙子はそれを笑い話的に姉たちに話す。曰く、要望が端正で行儀作法ができていれば低脳でも構わないらしいので、啓坊にうってつけである、という風に。姉二人は、妙子と啓坊の関係を金銭面から問題視しており、妙子が啓坊に貢がせておきながら捨てるというやり方に対して雪子が説教をしたので、妙子は席を蹴って飛び出す。
☆問題の語句。
・性的魅力(二三七頁、一七行目)


・花柳病(二三八頁、一行目)
「花柳病予防法」というのが、昭和二年四月五日に公布されているが、それによると花柳病とは梅毒、淋病、軟性下疳を指す。遊郭だけが売春の場ではなくなり、カフェができて女給(中でも性的なサービスの多いたぐい)がはびこるようになってからは、花柳界のみならず学生の間にも蔓延していたであろうことは想像に難くない。
ここで妙子が幸子に花柳病っぽいと思われているのは、雪子が妙子に対して不潔感を抱いているところが大きく影響しているだろう。雪子は妙子の後には風呂に入らないし、妙子の肌に触った布には絶対に近づかない(           )。また、幸子や雪子が妙子を花柳病であると疑う裏には、啓坊が遊郭に入り浸ったり女給に懇意なのがあったりするという噂が有力で(           )、啓坊が淋疾であるらしく(              )、妙子は啓坊と清潔な付き合いであると言い張っているが実際は推して知るべしみたいな(             )、という妙子に対する幾重もの偏見から生じている(その偏見のおおかたは当たらずといえども遠からずといったところであったようだが)。
・ミシン(二三八頁、七行目)
日本にアメリカからミシンが輸入されたのは明治末期。昭和初期(          )には日本製のミシンが出回り始めていたが、一般家庭に普及するのは戦後復興期の衣料不足の時期。和服より活動的な洋服が主流になり、洋裁を習って自分で服を作るというのが一般的になった。太平洋戦争も押し詰まったこの時期にミシンがあるのは裕福な蒔岡家だから。
満州(二四〇頁、七行目)
この時期の満州はどうだったかといえば、都市部はまだ普通に機能していたが端の方は貧しかったんだろうな(寒いから)、くらいなんだけど、特に重要な事件とかもないみたい。満州に関する代表的な事項といえば、一九三一年満州事変、一九三三年その影響で日本が国際連盟脱退、一九四五年空襲が盛んになり、同八月九日ソ連侵攻、同一五日終戦。四〇年代初め頃はなんとなく狭間の感じがする。