ただでなくても。

私がちょっとなじめない日本語、パート2をお送りします。
今日の私がちょっとなじめない言い回しは、「ただでなくても」。
正しくは、「ただでさえ」あるいは「そうでなくても(〜〜でなくても)」ではないでしょうかね。
「ただでさえ」あるいは「そうでなくても」の使い方は例えば次のような例です。
1。「ただでさえ(そうでなくても)お馬鹿さんなのにその上頭に辞書をぶつけるなんて(もっと馬鹿になっちゃうわ)」。
2。「そうでなくても(ただでさえ)賢いのにその上辞書を枕に寝るだなんて(もっと賢くなっちゃうよ)」。
「ただでさえ」という使い方をする場合の「ただ」は、「通常の状態」とか「普通」とか「何もない状態」とか、そういった意味合いです。つまり、「ただでさえ」は、「通常の状態においてさえ」というような意味合いで使われるということです。例1の場合なら、「辞書に頭をぶつけない状態にあってさえも」を表しています。
「そうでなくても」の「そう」は、「現在考慮されているところの通常でない事態」を指します。つまり、「そうでなくても」は、「その(現在考慮されている、異常な)事態でなくても」というような意味合いで使われるということです。例2の場合なら、「辞書を枕に寝るということをしなくても」を表すことになります。
つまりね、「ただでさえ」と「そうでなくても」は形は肯定形と否定形という逆の形を取りながら効果はほとんど同じで、「ただ」と「そうでない」はほとんど同じことを意味しているということです。
で、だから、「ただでなくても」ということは「そうでなくても」でなくても」つまり「そうであっても」を表してしまっているのですよ。つまり、「ただでなくても」は「通常の状態でなくても」とか、「現在考慮されている異常な状態であっても」とかを、表しているということになりますね。
先ほどの例1の「ただでさえ」に替えてこの「ただでなくても」を入れて、効果を見てみましょう。
1’。「ただでなくてもお馬鹿さんなのにその上頭に辞書をぶつけるなんて(もっとお馬鹿さんになっちゃうわ)」。
「ただでなくても」は、「「ただ」でない状態」ですから、「「頭に辞書をぶつけない状態」でなくても」つまり「頭に辞書をぶつけている状態であっても」を指すということが分かると思います。この例1’では、頭に辞書をぶつけるともっとお馬鹿さんになる(とこの発話者は言っているのでひとまずそれを鵜呑みにするとして)のですから、「「頭に辞書をぶつけていても」お馬鹿さんなのにその上頭に辞書をぶつけるなんて(もっとお馬鹿さんになっちゃうわ)」と、くどいというか意味の通りにくい文章だということですね。書いていても何がなんだか分からない感じがします。
要するに「ただでなくても」はなんか肯定するつもりで否定するというか否定するつもりで肯定するというか、そういう、効果の下がる使い方で、つまり間違っているのだということが言いたいのです。それだけなの。

今日の迷文「ただでなくても」。
      &今日のこの文章。